*Zephyrs*

観に行く舞台、気になったニュースをまとめるだけ

ひとつのお願い(1)

  ※(注)このお話はフィクションです。

「ミドリ様、私のお願いを聞いてください!」
放課後の教室。一人の女生徒が、緑色の石を握りながらそう囁いた。
そんな女生徒のグループを見ながら、一人の男子生徒が隣にいる友人に話しかけた。
「なァ、蕾人(らいと)。あれ、なんだ?」
「知らないの?」蕾人と呼ばれた友人が女生徒達に視線を止めたまま返す。
「知るわけ無いだろ。ミドリ様ってなんだよ? アノ石のことか?」身をのり出しながら質問で返す。
ナズナ川のミドリの石の話、聞いたことない?」友人は間髪入れずに返す。
「あの、『何でも願いが叶う石』ってやつか?」
「そう、それ。」
「花音(かのん)が持っているのがその石だって言うのか?」
「らしいよ。 願いの叶った人もいるらしい」
「マジかよ?」
「トノがそう言ってた。」
そんな会話を聞いていた花音美優(みゆ)が、石を握ったまま2人のところへ寄ってきて、
「トノちゃんの情報なんだから、ほぼ確実でしょう。」
右手に石を持ち、左手で蕾人を指差しながら言う。
蕾人は立ち上がると、窓のほうへと歩いていきながらゆっくりと口を開いた。
「確率は高いけど、トノが100%とは限らない。」
「何が言いたいのかしら?」
大股で蕾人を追い駆けながら美優が突き出す。
「そのままの意味だけど。」空を見上げながら、蕾人はゆっくりした口調で答える。
「トノちゃんを信じないってことかしら? 幼なじみのあなたが。」
美優の声がだんだん高くなってくる。
「この件に関しては信用できないかな。」
「あなた、性格変えたほうがいいわよ。」
「そう言う美優も、怒りやすい性格をどうにかしたほうがいいよ。」
「・・・」
「・・・」
蕾人は空を見上げ続ける。美優はそんな蕾人を睨みつける。

「な、なあ花音。」
しばしの沈黙のアト、蚊帳の外に行ってしまっていた友人が口を開く。
「新谷(しんや)、まだいたの? 何か用。」
「お前はどんな願いをしたんだ? その・・・ミドリ様に。」
「知ってどうするの?」
「別に、どうでもないけど・・・なんとなく。」ゆっくりと寄りながら答える。
「どうでもいいなら、聞かなくてもいいでしょ。」
「僕も知りたいな。美優のお願い。」
蕾人は、振り向くと急に会話へと割り込む。
「怜治(れいじ)はどうでもないみたいだけど、僕は美優がどんな女の子なのか知りたいし」
蕾人は笑顔で続けた。
「高校生がそんなこと言ってて恥ずかしくないの?」
美優はまだ怒りが治まっていないようである。
「全然。教えて。」
蕾人は変わらず笑顔のままである。
「・・・」
「・・・」
「あなたが独り言を言わなくなりますように。ってお願いしたの!」
沈黙を破り美優が言うと、
「トノ?」蕾人は質問で返す。
「分かってるじゃない? トノちゃんはやっぱり確実でしょ。」
「抜け目ないよなぁ、トノは。」
蕾人は再び空へと向き直りながらそっと呟いた。
「独り言ってなんだよ?」
こんどは友人、怜治が会話に割り込んだ。
「知らないの?」
美優が答える。
「茨城(いばらき)蕾人君はね、教室に一人で残っている時は一人で会話をしてるのよ。」
「なんだそれ? そんなの俺も聞いたけどよ、誰も見たことないし、結局デマなんだろ。」
「どうかしら。」
履き捨てるように言うと、美優はその場を離れ、自らの友人達のところへ戻ろうとした。
その時。
「セリナ」
蕾人が急に呟く。
怜治そんな友人を振り向き、
美優は足を止め、蕾人に振り返った。
蕾人は空を見ながら、そんな2人を確認したかのように続けた。
「芹菜(せりな)にまた会えますように。 ・・・かな? 美優のお願いは。」
2人に振り返りながら、蕾人はゆっくりと語った。

                       ・・・・・・続く